信州のゴマシジミ

ワレモコウの花穗の上で開翅するゴマシジミ♂(残念ながら、かなり飛び古している)

D810+200mmマイクロ、2017.08.09、木曽町

同上

前翅にシミがあるのが残念なゴマシジミ♂の開翅

D810+200mmマイクロ、2017.08.09、木曽町

ゴマシジミは、ワレモコウやカライトソウに産卵し、若齢幼虫時はこれらの花穗を食するが、その後クシケアリの巣に運ばれて、幼虫を食して蛹化することが知られている。

中部地方には、山間部のカライトソウに産卵するいわゆる山ゴマ(ヤマゴマシジミ)と呼ばれるPhengaris teleius hosonoi(以下hosonoi)と、ワレモコウに産卵するPhengaris teleius kazamoto(以下kazamoto)との2亜種が分布している。このうち、いわゆる山ゴマは、険しい崖のような場所に生えているカライトソウに依存するため、生息環境の変化は少なく棲息数は必ずしも多くないものの比較的安定した発生をしている傾向がある。

一方、ワレモコウに依存するkazamotoは、多くの棲息地が農耕地やその周辺など人為的な環境であるため、近年発生地が急速に減少しており、2016年「種の保存法」により希少種に指定され、採集などが厳しく規制されているところである。

(なお、種名や亜種名については、日本昆虫目録第7巻鱗翅目(2013)に基づき、記載させていただいた。)

8月に入り、ゴマシジミやオオゴマシジミが発生するシーズンとなっている。

D500+300mmF4VR、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto、松本市、2017.08.03

ワレモコウへ産卵に来たゴマシジミ♀Phengaris teleius kazamoto

D500+300mmF4VR、松本市、2017.08.03

上記のゴマシジミの産地では、地域ぐるみで保全活動が行われ、生息環境も良く保全されている。実際草刈り作業を見ていると、ワレモコウを刈らないように除草作業をされているケースも見られる。作業をされている方に確認したところ、地域で保全されていることを良く承知されており、刈らないようにしているとのこと。

しかしながら、kazamotoは信州と山梨県、静岡県の一部に残っているのみで、かつては多くの産地を有していた岐阜県や愛知県では、既に絶滅している可能性が高く、信州でも多くの棲息地が既に失われている。

下の写真の産地では、風前の灯火というのがピッタリの言葉である。今年も何とか産卵を見ることはできたが、生息環境は必ずしも良いとはいえない。

D500+300mmF4VR、ゴマシジミ♀Phengaris teleius kazamoto、木曽町、2017.08.03

D500+300mmF4VR、ゴマシジミ♀Phengaris teleius kazamoto、木曽町、2017.08.03

D500+15mmシグマ、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto、木曽町、2017.08.05

D500+15mmシグマ、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto、木曽町、2017.08.05

D500+15mmシグマ、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto、木曽町、2017.08.05

D500+100mmマクロプラナー、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto

木曽町、2017.08.05

D500+100mmマクロプラナー、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto

木曽町、2017.08.05

D500+100mmマクロプラナー、ゴマシジミ♂Phengaris teleius kazamoto

木曽町、2017.08.05

kazamotoの数多くあった産地は、既になくなっている。絶滅に至った経緯は諸説あるようだが、産卵植物であるワレモコウが残っていても多くの棲息場所が失われたことを考えると、クシケアリの生息環境が何らかの理由で悪化したことが原因であると推測される。草刈り機の導入や除草剤の使用も原因と思われるが、もっと大きな要因があるように思う。

さて、残された棲息場所をどのように残していくのか、種の保存法で採集などを禁止しただけでは抜本的な解決とはならない。

 

 

ここで、私見を少し述べたい。

 ゴマシジミsubsp.kazamotoとアサマシジミsubsp.iburiensisが種の保存法で亜種として2016年に希少種に指定された件は、大きな問題を提起したと考えている。

 種の保存法が適用される場合、過去に採集した標本の譲渡(有償無償に関係なく)ができなくなる。調べてみると、遺産相続は問題ないようだが、受け継いだ家族がこれらの標本をちゃんと認識して、大学や博物館に寄贈することは容易いことではないし、受け入れる側でもそう簡単ではないと思われる。法律ができたので、国民としては法を守るのは至極当然のことなのだが、かなり高齢となっている採集者(元採集者も含む)が亡くなられた後、これらの措置がきっちり行われる可能性はかなり低いと考えられる。

 棲息地がかなり狭くなっている現状では、絶滅を防ぐ効果があるとは思うが、採集を禁止するだけなら、わざわざ「種の保存法を」持ち出さなくても条例による規制でも十分ではなかったのかと思うのである(長野県ではアサマシジミの条例指定の例がある)。

 

 

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